曖昧語

 商品誌の記事を翻訳するとき、日本語は本当にストレートに言わない言語だなぁとつくづく思う。日本人の日常生活もそうだけど、法の規制もあるというので、広告の記事における言葉や表現などに非常に気を遣っているらしい。

 例えば、化粧品を紹介する記事を訳しているときに、「働きかける」という言葉に悩まされたことがあった。当てはまる華語が思い浮かばなかったからだ。文章の流れから見れば、そこに華語の感覚では「効く」とか「有効」という言葉が来るのが一般的だが、「働きかける」と「効く」は日本語的にはかなり意味が違う。でも、「積極的に作用をしかける」という風に訳したら、どうも勢いが弱いというか、説得力がないような気がする。

 そもそもシミとかシワとかに「働きかける」というのは、非常に曖昧な言い方ではないか。働きかけて、それで?効くの?効かないの?はっきり言えよ、と突っ込みたくなる。日本人は「効く」というニュアンスを感じ取れるかもしれないが、中華圏の人にはそんな暗黙の了解は存在しない。はっきり言って、「効く」ときっぱりアピールしないと買ってもらえないと思う。

 編集者に相談してみたら、日本は法律によって医薬品とか化粧品とかの広告に「効く」みたいなストレートな言葉を使ってはいけないらしい。それは驚いた。台湾で薬か化粧品の広告なんてみんなバリバリ「効く」と大いに宣伝しているから。結局折り合って「働きかける」という言葉を訳文で「改善する」という表現を使うことになった。もしかして、菊を持っている女優さんが「キク~」と気持ちよさそうに連呼する、あの何とか湿布のTVCMがシャレを使ってその規制を逃れているかもしれない。

 「働きかける」のような「曖昧語」のほかに、受身と伝聞といった語形変化や断定を避ける言い方もよくごまかし(責任回避といってもいいだろう)に使われているようだ。

    ~~といわれる(いわれている)
    ~~とされる(されている)
    ~~という
    ~~とか
    ~~そう
    ~~かもしれない

 忠実にいちいち「聽說」「有人說」「據說」「也許」という風に訳したら中華圏の読者に怒られそうなので、一つの記事にあまりにも多用されたとき、私はこういうごまかし成分の一部を無くして訳すようにしている。このやり方が正しいかどうかわからないが、商品はそこそこ売れているようだし、くびにならずに三年間やってきたし。翻訳料は上がっていないけど。しくしく。

コメント

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コメントをありがとうございます。日本語が上手になりたいなら、私の文章なんかより普通に本を読んだほうがよっぽとマシだと思いますが、気に入って頂いて嬉しいです。

 
  この文章が面白いと思います。
そういえば、時々はっきり言えと言いたくなります。
あなたの文章を読んで日本語が上手になりますので、時々邪魔します。

何さん
お久しぶりです。コメントをありがとうございます。「~させていただきます」という言い方はすごく多用(濫用?)されているような気がしますが、これも責任回避ですね!なるほど。場合によって「どうして私が許可しなければならないんだ?勝手にしろ!」って言いたくなりますね。

「責任回避」という指摘は,全くその通りだと思います。

ここ何年かで,以下の言い回しも増えました。
「説明させていただきます」
「連絡させていただきます」
村上龍『eメールの達人になる』(集英社親書)によれば,この“~させていただきます”という表現は,自発的でなく,他人に命令されて実行する意味合いを含んでいるそうです。つまり,責任回避ですね。